第5回 取締役の責任

有限会社小平食品は、冷凍食品の加工業者で、

2代目社長の小平良介の手腕により急成長、現在約200名の従業員を抱えている。

良介の長男である崇も同社の取締役であるが、

崇は、ワンマン経営の父親を嫌い、自分で新事業をおこそうと奔走している。

本日は、崇は、新事業の資金調達のため、小平食品の取引銀行である府中銀行の

100%子会社である府中キャピタルというベンチャーキャピタルに来ている。

ベンチャーキャピタルとは~府中キャピタル「お客様相談室」において~

崇「助かりました。ベンチャーキャピタルの知り合いなんていないから、立川さんにこちらを紹介してもらえて本当によかった。」


立川「いえいえ、これからは、我々地方銀行も直接投資部門を強化していかなければいけませんので、ご相談にあずかり光栄です。
 この者が府中キャピタル新規事業部の高尾直道です。今後は、この者に何でもお申し付け下さい。
 実は、今は所属は違いますが、私と高尾は府中銀行の同期入社なんですよ。」


高尾「はじめまして。高尾と申します。大体の話は、立川の方から聞いておりますが、新しく会社を作られるとか…。」


崇「LLCがいいんじゃないかと思っていたんですが、何しろ新しくできる形態ですし、よく分からないことも多いので、やっぱり、株式会社の方がいいのかなあなんて最近は思っています。」


高尾「たしかに、LLCへの新規投資となりますと、当社も過去の蓄積があまりないので、どのように扱っていけばよいのかちょっとお勉強させて頂かないと…。」


崇「まあ、そういうわけで、株式会社を前提としてお話しさせてもらうとしてですね。僕たちのビジネススキームは…」

会社の取締役が事業をする場合の制約

立川「ちょっと、お話しを遮るようで大変恐縮ですが、今日は小平社長もご一緒の予定では?遅れていらっしゃるのでしょうか?」


崇「ん?ああ、親父は今日はちょっとダメになりまして…。」


立川「でしたら、日を改めての方がいいんじゃないでしょうか?」


崇「まあ、別に、今すぐ、お金がどうこうという訳ではないですし、そもそも、親父は関係ないですからね。」


立川「しかし、崇さんは、小平食品の取締役ですから、新しくビジネスをするにしても、例えば、競業避止とかいろいろ制約がございますよ。ですから、小平食品の筆頭持分権を有するお父さまを抜きにして話を進めるというのは…。」


崇「「キョウギョウヒシ」って何のことですか?」


立川「競業避止というのは、取締役は、自分とか第三者のために会社の営業の部類に属する取引については自由にはできないという制限です。」


崇「つまり、小平食品の商売とバッティングするような商売をしてはいけないということですね。でも、安心して下さい。親父の会社は、ITとは全く無縁ですよ。」


立川「そうですか。しかし、今後、崇さんが新会社の取締役を務めるとなれば利益相反の問題もでてくるでしょうし、いずれにしても、新規事業の内容が取締役としての義務に反しないかどうかについては、弁護士等に一度ご相談された方がよろしいかと思います。」


崇「はあ…。分かりました。じゃあ、今度は、弁護士を連れてきますので、また相談させて下さい。」

会社法下で利益相反・競業取引をする場合の手続~府中キャピタルの社員用喫茶店において~

立川「時間とってもらって済まなかったな。おれはてっきり小平社長の肝いりで話が進んでるのかと思っていたんだが。」


高尾「ちょっと、危うい感じだな。しかし、競業避止だったなんてシャレにならないからなあ。」


立川「何かあっても、一応、過失責任ではあるんだが…。」


高尾「もうちょっと分かりやすく教えてくれよ。ここのコーヒー代は俺が持つからさ。」


立川「150円の講義料って随分安いなあ。お前、そもそも、競業避止とか利益相反規制については分かっているんだろうな。」


高尾「オイオイ、いくら何でもそれぐらいは大丈夫だよ。」


立川「じゃあ、取締役が競業取引をする場合にはどうすればいい?」


高尾「取締役会の承認を得ればいいのさ。」


立川「株式会社の場合はそうだよな。じゃあ、有限会社の場合は?」


高尾「有限会社の場合はどうだったけなあ…。取締役会がない場合もあるから…、えーと。」


立川「有限会社の場合には、社員総会の特別決議による認許が必要なんだよ。」


高尾「なるほど。」


立川「株式会社であっても取締役会を設けなくてもいい場合もあるんだけど、そういう会社で取締役が競業取引とか利益相反取引をしようとする場合にはどうすればいいと思う?」


高尾「取締役会がないんだから、社員総会…じゃなくて、株主総会の承認を受ける必要があると思うんだけど…。」


立川「その場合、株主総会決議は普通決議かそれとも特別決議かどっちだと思う?」


高尾「取締役会がないということは、現行の有限会社と同じということだから…、特別決議!」


立川「残念!普通決議でした。」


高尾「有限会社の場合より、要件が緩やかだということか。でも、なんでそうなっているんだ?」


立川「有限会社の場合には、社員総会の特別決議が必要とされているけど、その代わり、一旦特別決議を受けた以上は、たとえ競業取引とか利益相反取引で損失が生じても、原則として責任は問われないんだ。
 ところが、株式会社では、普通決議でいいけれども、競業取引で損失が出れば、原則として責任があるとされるわけなんだよ。」

取締役の過失責任

高尾「深いねえ。それで、過失責任というのはどういう内容なんだ。」


立川「従来は、違法配当、利益供与、金銭貸付け、利益相反については、無過失責任とされていたんだ。つまり、注意義務に違反しないできちんとやっていましたよということを証明したとしても損害賠償責任を逃れることはできなかったんだ。」


高尾「無過失責任の意味ぐらい分かるよ。それで、無過失責任がどうかしたの?」


立川「過失責任となったんだ。」


高尾「注意義務を果たしていれば、責任を免れるというわけだな。」


立川「但し、全部ではないぞ。利益供与について言えば、利益供与をした取締役は無過失責任だし、利益相反の場合、自己のために利益相反取引の直接取引をした取締役については、やはり無過失責任とされる。」


高尾「直接の実行犯は注意義務に違反していなくても責任をとらされるってわけか。でも、実行犯が注意義務に違反していないなんて事あるのか?」


立川「利益供与の場合には、そういう事例はちょっと考えつかないな。ただ、利益相反の場合には、「会社に損害を与えないように注意して取引したつもりなんですが…」というケースもあるんじゃないのかなあ。」

利益相反取引をなした取締役の責任の免除

立川「利益相反の場合には、そう言っていいのかなあ。
 ただ、従来は、会社の承認を受けた利益相反については、「総株主の議決権の3分の2以上の賛成で免除する」となっていたんだが、こういう免除は、今は認められないんだ。」


高尾「ということは、利益相反だけは厳しいと覚えておけばいいのか。」


立川「そうとも言えなくて、全部免除は認められないけれど、一部免除というのが認められるようになっているんだ。」


高尾「ふむふむ。一言で責任が軽くなったとか重くなったとか言えるもんじゃないんだな。」

競業避止義務違反における介入権の廃止

立川「従来の話でいうと、会社の承諾を得ないで行う競業取引については、会社は介入権を行使できるとされていたんだが、今では廃止されてしまっているんだ。」


高尾「介入権って、小平食品の例で言うと、崇さんが食品加工の仕事を、例えばA会社から請け負った場合に、小平食品がA会社から請け負ったことにして、崇さんの利益を取り上げる権利のことだよな。何で、廃止しちゃったの?」


立川「介入権と言っても、その効果は、会社が取締役に対して、「その取引先をうちの会社に譲りなさい」と請求できるだけのことで、強制的に、取締役の取引先を会社の取引先に変更する権利ではなかったんだ。だから、あまり意味がないとされていたんだよ。」

 

高尾「そうなのかあ。本当に勉強になったよ。俺は次の相談のお客さんが来るから、そろそろ行くよ。お前はゆっくりコーヒー飲んでてくれ。また、うちの会社の近くに来ることがあったら連絡くれよ。」


立川「おい、待て高尾!勘定書を置いて行くなよ!」


                         (つづく)

 

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