第10回 事業継承

有限会社小平食品は、冷凍食品の加工業者で、

2代目社長の小平良介の手腕により急成長、現在約200名の従業員を抱えている。

小平食品の取引銀行は、府中銀行であり、小平食品の担当は、金融、経済、法律について

常日頃から本を読んで研究している学究肌の銀行マン、立川伸吾である。

中小企業の融資担当営業は2年目で、当初は理論的でない経営者の

相手をするのが苦手だったが、少しずつ現実を踏まえた図太さを備えつつある。

立川は、ゴールデンウィークを利用して彼の実家である鹿児島に帰省中である。

立川の両親である立川久義と妻春恵は

「株式会社 武蔵小金井」という注文建築会社を経営している。

~伸吾の実家で~

伸吾「ただいまー。」


春恵「お帰りー。さあ、上がりなさい。お父さんは、今日は休みをとれるはずだったんだけど、急に打ち合わせが入っちゃって。」


伸吾「相変わらず忙しいんだな。後で仕事場に顔出すよ。パソコンが立ち上がっているけど、お母さんも仕事中だったの?」


春恵「最近、ほかのことが忙しくって仕訳がたまっちゃったのよ。伸吾が帰って手伝ってくれるといいんだけど…。」


伸吾「………。」

取締役の資格~鹿児島市内にある株式会社武蔵小金井の事務所にて~

伸吾「父さーん。」


久義「おお、伸吾か!帰ってきていたのか。丁度、今、一区切りついたところだ。飯を食いに行こう。」

~桜島と錦江湾を見渡せる魚介料理店にて~

伸吾「忙しいみたいだね。」


久義「なあに、たいしたことはないさ。ただ、最近、目がかすんでしょうがないんだ。そろそろ、社長は潮時だな。」


伸吾「えっ!それじゃあ…。」


久義「心配するな。お前に帰ってこいとはもう言わないよ。あとは、取締役の久我山にまかせるよ。」


伸吾「父さん自身はどうするの?」


久義「俺は、最大株主として、配当を年金代わりに悠々自適さ。

ちょっと、聞きたいんだけど、久我山とか他の取締役には、株式を少しずつ持たせて責任を自覚させたいんだけど、それを強制することってできるのか。」


伸吾「父さんの会社は株式譲渡制限会社だから、取締役の資格として、取締役を株主に限る旨の定款の定めを置くことができるよ。」


久義「それはよい方法だな。」

監査役の権限の限定と取締役の報告義務

久義「それから、何かあったときは、俺の下に会社の情報が入ってくるようにしたいんだが。」


伸吾「だったら、せめて監査役でもやったらいいんじゃない?」


久義「俺が会社をうろうろしていたら、久我山がやりずらくってしょうがないだろ

う。」


伸吾「うーん。それじゃあ、監査役の権限を会計監査権限に限るというのはどうかな?」


久義「会計監査権限に限ると、どうなるんだ?」


伸吾「会社の監査を実質的に株主が行うようになるんだ。
まず、取締役は、株式会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を株主に報告しなければいけなくなるんだ。」


久義「つまり、取締役の駆け込み先が監査役でなく株主になるというわけだな。」

株主による取締役会開催請求

伸吾「それから、取締役が違法行為等をしたり、違法行為をするおそれがあると認められるるときは、取締役会の開催を請求することができるよ。」


久義「それでも、開催されない場合にはどうするんだ?」


伸吾「自ら招集することができるし、その取締役会に出席し、意見を述べることも可能なんだ。」

株主による違法行為差止

久義「そうやって、取締役を集めて注意しても言うことを聞かない場合もあるだろう。」


伸吾「株主は、取締役が違法行為をしたり、違法行為をするおそれがある場合であって、当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができるとされているんだ。だから、父さん自身が差し止めることになるね。」


久義「まあ、そんなことはないとは思うんだけどもな。
それから、取締役の解任はどうなっているんだっけ?」

取締役解任決議要件

伸吾「取締役の解任は、以前は、株主総会の特別決議が必要だったんだけれども、会社法では、普通決議で足りるとされたんだ。」


久義「つまり、解任しやすくなったというのか。」


伸吾「うん。でも、うちの銀行の取引先の会社は、ほとんどが、定款を変更して、取締役解任には特別決議が必要だとしているよ」


久義「いやいや、実際には、気に入らないからすぐに解任というわけにはいかんだろうが、要件としては普通決議でいいだろう。」

株主総会の権限強化

久義 あと、株主総会の権限を強化したいんだが、そういうことっていうのは可能か?
伸吾「つまり、本来は、取締役会の権限であるものを株主総会の権限とするということ?」


久義「例えば、新株の発行とか、社債の発行とか…。」


伸吾「たしかに、取締役会非設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができるとされているんだけれど…。」


久義「うちの会社みたいに取締役会設置会社はダメなのか?」


伸吾「いや、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び「定款」で定めた事項に限り、決議をすることができるとなっている。」


久義「それならば、「定款」で、「株主総会は、株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」ってすれば、どんなことでも株主総会で決議することができるじゃないか。」


伸吾「理論上はそうなるんだけど、何かやる度に株主総会を開かなければいけないというのは、やはり非現実的じゃないかな。
ただ、新株発行、社債発行、新株予約権発行については、株主総会の決議事項とする旨の定款変更は、理論的にも実務的にも問題ないと思うよ。」

株式譲渡承認機関

伸吾「新株発行を株主総会の権限とするのであれば、株式譲渡の承認についても、取締役会ではなく株主総会が決めるとした方がいいんじゃないかなあ。」


久義「そんなことも可能なのか?」


伸吾「以前は、株主総会を承認機関とすると譲渡承認がなされるまで時間がかかるから、そんなことは認められないなんて意見もあったんだが、会社法では、株主総会を承認機関にできることが明らかになったんだ。」


久義「いいところに気付いてくれたな。お前の言うとおり、知らないところで、株式が変なやつに譲渡されてしまっては困るからな。」

新株発行と現物出資

伸吾 ところで、父さんは株式を何割くらい持っているの?
久義 たしか、母さんと合わせて3割くらいかなあ。
伸吾「えっ!最大株主って言っていたけれど、そんなものなの?」


久義「3割って少ないのか?」


伸吾「父さんの会社の規模くらいだと、普通、過半数ぐらいは持っているけどね。」


久義「少し、引退前に新株発行を受けておいた方がいいかな。」


伸吾「そうだね。通常の定款変更の場合には、株主総会特別決議が必要だから、せめて全体の3分の2くらいは、母さんと合わせて持っていないと心配だね。」


久義「そうか。しかし、会社に払い込むべき金がないな。」


伸吾「会社の事務所は、たしか、父さん個人名義の建物じゃなかったっけ?」


久義「そうだ。あれについては、会社に賃貸して賃料を払ってもらおうかと思っているんだが。」


伸吾「それもいいけれども、将来、家賃が減額されたり、契約を解除されたりするリスクを考えると、あの建物を現物出資して新株の発行を受けた方が株主の地位強化としてはいいんじゃないかな。

500万円以内だったら検査役の選任もいらないよ。」


久義「そういう手もあるのか。しかし、お前も立派になったもんだなあ。本当は、お前が継いでくれると何も心配はないんだが…。」


伸吾「………。」


久義「おいおい、冗談だよ。そんな深刻な顔するな。どうだ、やはり、錦江湾の魚は上手いだろう。しっかり栄養とって、また東京でがんばれ。」


伸吾「うん。」


                         (つづく)

 

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